「世界一優雅な野獣」

今日は全然インテリアと関係ない話ですが、私はバレエが好きです。

バレエの、絶対的な美しさが好き。無駄のないところが好きです。

NETFLIXで、「セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」を見ました。2018年に日本公開の映画なので、全然ニュースでもなんでもないですが。

ポルーニンは、ウクライナ出身。

かの国では男の子のダンサーはだいたい体操から入り、ある程度能力が見極められた時点で体操を続けるかバレエを選ぶか、決めるのだそうです。彼の場合は8歳の時に母親が迷わずバレエを選びました。そして、キエフの国立バレエ学校の学費を稼ぐため、祖母と父が外国に出稼ぎに出て、母親はキエフにセルゲイと同行して支えます。このとき「お遊びは終わり」になったと、回顧します。家族の期待と多大な犠牲を背負い、11歳で自分の才能一本に賭けることになったわけです。

13歳で母親が「外国のバレエ学校がいいのではないか」と思いつき、英ロイヤルバレエ学校のオーディションを受けます。もちろん合格。しかし、母親には滞在ビザが出ないため、母親はウクライナに戻ります。その後1年で両親が離婚。家族がバラバラになってしまいます。そこから、彼は悲しみを背負い、それでも踊り続けることになります。

19歳、史上最年少でプリンシパル(主役ダンサー)に抜擢されたデビューは「ヌレエフの再来」と評されました。ルドルフ・ヌレエフは、ロシア出身のバレエダンサーで、海外公演中に亡命。マーゴ・フォンティーンとペアを組み、やはりロイヤルで長く客演をしました。日本バレエ界の至宝・森下洋子が「最も印象深いパートナー」と讃える、伝説のバレエダンサーです。

何がすごいといって、ポルーニンは若いので、子供時代からのカラー映像がレッスン風景も含め豊富にのこっていることです。最初は子供の天衣無縫な踊りだったのが、年齢をへるごとに、どんどん際限なく上手くなっていく。ロイヤルに移籍した後のレッスン風景では、他の人より遅くピルエット(回転)を始めて、他の人よりたくさん回り(スピードが速い)、他の人よりしなやかに着地し、他の人より高く優雅にジャンプして、さらにそこに小技を挿入し、華麗にポーズを決める。テクニック以上に表情がある肢体。レッスンなのに、映画なのに、思わず拍手をしてしまいました。

「ジゼル」でアルブレヒトを踊るポルーニンは、そこいらのダンサーには出せない表情で、胸に迫る表現力を発揮しています。言葉を必要としないバレエという芸術が、まるで本を読んでいるかのように美しく情感豊かに現実に立ち上がるのです。

クラシックバレエは、世界の舞踊の最高峰です。ほかのダンスは、子供の頃から教えれば、ダンサーの子供がプロになれるかもしれない。けれども、バレエに関して言えば、「有名バレエダンサーの子供」が有名バレエダンサーになったという話は、ほとんど聞きません。ミテキ・クドー(元パリ・オペラ座所属)が、日本人とのハーフだから日本では「多少有名」ぐらいですが、母親はパリ・オペラ座のエトワール(主役を踊るダンサー)だったけれど、ミテキ・クドーはスジェ(5段階の3番目)止まりです。

ポルーニン。現在はジョニー・デップの映画に出演するなど、新たな境地を切り開いているようです。日本では草刈民代が映画「Shall We Dance?」を経て女優になったケースがありましたが、欧米ではバレエダンサーを経て俳優・女優になるケースは大変多くあります。そういえば、「Sex and the City」には、ミハイル・バリシニコフが出演していましたね。バリシニコフも伝説のダンサーです。

実は、バレエのような「非常な鍛錬を伴う芸術」は、芸術先進国への「才能の一方的な提供」といった状態にあります。熊川哲也や吉田都も在籍した英ロイヤルは、外国人に開かれたバレエ団だから、日本人がプリンシパルになれるのですが、一方でそういった才能の一番脂がのっている時期を、日本にいては見られない状況にしています。また、ダンサーの割く犠牲の大きさに比べ、労働環境が世界的にも充実していません。同じ体が資本のスポーツに比べ、トップスターであっても支える体制が脆弱です。

ポルーニンはダンサーに「エージェント制」を提供できるよう模索中とのこと。いずれにせよ神様から与えられた才能を、余計な心配なく育てられる環境が整えばいいなと思います。

 


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